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月下の一隅[若月まり子の資料室]
[第7夜]
恋におちたシェイクスピア
Shakespeare in Love
映画 123分 1998年
監督:ジョン・マッデン
ユニヴァーサル映画製作 UIP配給

 歴史というものを考える時、戦争や政治的な出来事が大の苦手な私は、まず人々の衣裳がどうであったかを思い浮かべることから始まり、周囲の風景はどうであったかに想像をめぐらし、それがだいたいどのくらいの時代かを推測するのが常です。
 もちろん衣裳はその時々の戦争や政治のあり方に深くかかわっているのは当然なのですが、どうしても私の場合、頭の中にぱっと浮かぶのはその時、人がどんな姿をしていたかということです。
 服飾の大好きな私は、たいていどんな時代のものでも、それぞれに素材や色やデザインが気に入れば、すっかりその時代にはまり込んで楽しんでしまいます。きっとどの時代にも語り伝えられてきた数々の物語が散りばめられているせいでしょう。
 私は特に中世からルネサンスにかけての衣裳が好きで、今までにも、「少年レオナルド・ダ・ヴィンチ」、「少年シェイクスピア」、「少年ラファエロ」、「ジュリエット」、「オフィーリア」、「ロビンフッドとマリアン姫」など、それぞれに絵画や映画などを参考にして工夫を凝らした装いをさせて制作しています。
 時代を遡るにつれて今を遠くはなれた異界を感じさせるのですが、あまりに古代になってしまっても今度は服飾文化が未発達のためデザインが簡素になりすぎて、人形としての楽しさがなくなってしまうので難しいところです。思い切り古代になってしまえば今度は翼ある神々の時代となり、また私の大好きな世界へと到達してしまうのですが……。
「少年シェイクスピア」を作った時は、映画「恋におちたシェイクスピア」を参考にしました。この時は、映画のおもしろさにすっかり夢中になっていたので、以前からシェイクスピア作品が好きだったことよりも、この映画に触発されて……といった方がいいのかもしれません。
 映画のシェイクスピアはとても素敵でした。お金に困って無理矢理書かされていた喜劇「ロミオとジュリエット」。その舞台稽古の場に突然現れた男装の美女ヴァイオラとの実るはずのない恋に、せいいっぱい命を燃やし続けた果てに作家として成長をとげたシェイクスピアは、ついに自分たちを体ごと作品の中に投じて喜劇「ロミオとジュリエット」を悲劇「ロミオとジュリエット」という観客全員を涙にくれさせた名作へと変貌させたのです。
 この映画では笑いばかりを求めていると思った民衆がほんとうは悲劇を味わうことによって起こる心の浄化を求めていたというシーンが描かれたことが感動的でした。
 シェイクスピアの衣裳はシンプルながら当時流行ったばらばらに切り離せる袖や何枚にも分かれたペプラム、巧みなステッチ遣いをした上着、広げるとテーブルクロスぐらいになりそうなたっぷりとした洗い晒しの生成りの亜麻布を使ったブラウス、それに斜めにかけて小粋な着方をするマントなど、服飾事典や絵画事典で確認しながら多々参考にさせていただきました。
 でも、やはり当時主流だったオ・ドゥ・ショース(かぼちゃ形のパンツ)は、どうしてもリリカルな感じをこわす恐れがあるように感じられてしまうので、このような場合タイトなパンツに作り変えています。そういう時に異文化を根本から理解できない淋しさを感じずにはいられませんが……。

[若月まり子 2006/11/29]

(注)ジョン・マッデン監督作品の映画「恋におちたシェイクスピア」は1998年に製作され、日本では1999年に公開されました。脚本はマーク・ノーマン、トム・ストッパード、衣裳デザインはサンディ・パウエル。この「恋におちたシェイクスピア」はインターネットで数多くの情報を得ることができます。また、現在DVDが発売されています。

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