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月下の一隅[若月まり子の資料室]
[第9夜]
森のなかの1羽と3匹
大島弓子 著
白泉社刊 A5判変型

 この絵本の中に収録された「カッコー」が初めて「月刊MOE」誌上に掲載された時、何ともいえない感動に襲われてしまいました。その時にはいったい自分が何に感動しているのかよくわからないままその余韻を心のかたすみに抱き続け、後に何度となく「カッコー」のページを開いて眺めたものでした。
 それからほどなくマンガ「綿の国星」に出会うことができ、大島弓子さんという方が、とても夢みがちでありながら哲学的で、瞑想的な考え方をつき進めていき、作品上でせいいっぱい語ろうとする一途な作家であることも知りました。かなり昔、少女雑誌で読み、ずっと忘れられなかった「四月怪談」も大島さんの作品だと知り、ますます得心が行きました。
 この絵本「森のなかの1羽と3匹」の中には「カッコー」の他に「トンボ」「カエル」「セミ」の合計4作が集められていて、それぞれに小さな命が輝くように一瞬の時を生きる様子が描かれます。
 でもやはり異色を放って衝撃的なのが「カッコー」です。
 カッコウは、自分の巣を作らず他の鳥の巣に卵を産んで子育てすらも任せてしまいます。(これを托卵というそうです)
 ヒナは巣の中の他の卵よりも先に生まれ、母鳥が運んでくる食べものをひとりじめして、ついには「過失か、故意か」ほんとうの子供である他の卵を落として割ってしまいます。
 カッコウはヒナの時から備わった宿命的な性質によってそういう行いをしてしまうのですが、その記憶は残り続け、心の闇を埋めようするように、心の飢えを満たそうとするように愛を求め続けるのです。
 クライマックスの見開き2ページを一枚の絵にした魂の叫びは、胸をつよく打ちます。
「ああ さみしい ああ つらい ああ かなしい ああ たりない もっと もっと もっと もっと もっと もっと ちょうだい……(略)……だから もっと もっと もっと もっと もっと 愛して……(略)……もっとたくさん愛してよ」
 罪をおかさなければならない宿命を背負って生まれてしまうものの悲しさ──それは誰もが完全だと思い違いしがちな自然の犯したあやまちであるのかもしれません。
 これほどまでに切なく煩悶し続けたカッコウもその短い一生の中で、次にまたその悲しい生を引き継いでいかざるをえず、結局はまた他の鳥の巣を見つけて卵を産もうとします。
 でも、大島さんのカッコウはそこで考えるのです。
 自分が抗えない運命の中の小さな一点であるとあきらめつつも、ふっと考えるのです。いつかこの苦しみに満ちたカッコウの歴史をほんの少しずつでも変えることができたら……宿命を乗り越えることができたら……それは一羽のカッコウが自分自身を変えることに果敢に向き合うことによって切り開かれるのかもしれないのだと。
 大島弓子さんの発想の美しさデリケートさは独特です。
 小さなもの弱いもの独特の、澄み切った諦念の、そうでありながら真摯な視点から眺めることで、ふだん人が何げなく見過ごしているこの世の不条理や無常をあざやかに描き出していきます。
 そこにはどの作品にも共通する挫折しながらも愛をめざそうとする者の切なる問いかけが暖かいまなざしで見つめられています。

[若月まり子 2006/12/03]

(注)大島弓子著「森のなかの1羽と3匹」は1996年に白泉社から刊行され、「カッコー」は「月刊MOE」1995年10月号に初出されました。

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