ラベンダーはブルー ディドゥル♪ ディドゥル♪
ラベンダーはグリーン
ぼくが王さまになったらね
きみは女王さまになるんだよ
(マザー・グースの歌より)
ごとごとゆれる青い荷車には、うすいブルーのリボン飾りとラベンダーで編んだ長い長いステキな香りのガーランド。
荷車をひくのは男の子たち、歌を歌うのは女の子たち。
フカフカ積まれた干し草の上でプロポーズごっこできるのは、あそこの糸杉の木陰の小川のほとりまで……。
ごとごと、ごとごと、そこまで行ったら次のふたりが交代するの……。
ラベンダーの冠も次の女王さまがかぶるのよ……。
マザー・グースの歌にのせて可愛らしい子供たちが繰り広げる夢いっぱいのシーン。
男の子たちは白いブラウスにサイドボタンがいっぱい付いた七部丈パンツ、腰にはくすんだ赤のリボンベルト。先頭をいく子はその上に短いブルーストライプのジャケット。
女の子たちはラベンダーブルーのワンピースやくすんだ赤やブルーストライプのスカートに白いエプロンが清々しく、小花模様のオーバースカートをたくしあげていたりウエストのうんとくびれたジャケットを着ていたり、そしてみんな一昔前にはやったドレープを活かした白い衿飾りとリボンをあしらったレース付きのキャップ。
はずむような足音が聞こえそう……これは全員おそろいの横ストライプの靴下と花飾りのついた靴。
子供たちは手に手にラベンダーとリボンで飾った鋤や花束を持って進んでいきます。
長いガーランドが画面の前方と後方に続いているように描かれているのは、この行列の子供たちがもっと大勢いるらしいことを想像させます。
マザー・グースの歌というのはとても謎に満ちて怖いものが多いのですが、ル・メールは独自の夢見がちな解釈でそれを全く悪意のない子供たちの遊び歌の世界へと転換させています。それは暖炉の前でお菓子の焼ける匂いとともに聞くちょっと怖くて不条理な昔歌というよりも、さわやかな晴れた日に木漏れ日の下のベンチで花飾りのついたキャノッチェをかぶったおばあちゃんに聞く懐かしい歌、午後の公園をそぞろ歩きながらパラソルの陰からウィットに富んだ笑顔でほほえみかかる水玉模様のドレスのお母さんに聞く遊び歌の世界。
どれもこれもウィルビーク・ル・メールからの心をこめた贈り物です。
その証拠にすべての絵は、花やリボンの縁飾りの中に大切に収められています。少女の心をとりこにするこの美しい縁飾りはル・メール独特の手法です。
縁飾りの中には淡く上品な色遣いと抜群のデザインセンスでとってもおしゃれなファッションの子供たちや凝った室内インテリア、調度そしてよく手入れされた庭の様子などがとても繊細に描かれています。そのやさしい色彩はふんわりと漂うタルカムパウダーの香りを思い起こさせませす。
そんな気品ある生活シーンの細やかな描写は、ル・メールが恵まれた家庭環境に育ったからこそ自然に身に付いて描き得たもののようですが、一般に流布されたときには少女たちに夢と憧れの世界を提供することになったのです。少女たちはいつだっておしゃれや、ステキに飾られた部屋や花の咲き乱れる庭園に目を輝かせるのですから。
ル・メールの魅力の多くは何といっても子供たちの生き生きとしたしぐさと洗練されたファッションの素晴らしさです。それは一世代前にはやり少女たちのファッション・リーダーとして一世を風靡したケイト・グリーナウェイを受け継いで発展させていったもののようです。
ル・メールは1900年代前半におもに活躍した人ですが、その時代のファッションはもとより、もう少し昔、そしていかにもおとぎ話風の昔のファッションも多く描いています。
男の子のものも、女の子のものも、帽子、ドレス、エプロン、パンツ、靴下、靴、ストール、リボン、コート、ベルト…。冬のシーンでは暖かな毛皮の帽子やマフなど、それはセンスよく着こなしています。特に帽子やドレスの上品な花やリボン飾りなどが目を引きます。
いろいろなシーンで子供たちが見せる日常のさりげない小物の使い方、たとえば結んで描かれることの多い帽子のリボンをほどいて垂らしている時など思いがけない可愛い表情を発見できるというように。
ル・メールの絵本は次々ページを開いて話を追っていくようなものではありません。
どのページを開いてもその物語がその見開きだけで完結しているため、ずっとそのページだけに見入っていられるという独特の楽しみ方ができるのです。それはマザー・グースの歌などのように1ページの中に収められた短い文章の語る完結された物語をもう1ページの中に絵として完結させているからです。
ル・メールのもうひとつの特徴は、コマ割りのようにふたつ続けて描き、シーンの展開を表現したものが多数あることです。これも見る人に物語の展開をよく理解できる楽しい手法だと思います。そしてル・メールの心の縁取りであるかのような花とリボンでかざられた囲い中でのできごととして描かれていることが、白い現実のページから物語をのぞき込むような効果を作りだし、私たちになおいっそうの楽しさを与えてくれるのです。
この「ラベンダーは青い」の可愛いらしさに魅せられて、かつて私は妖精たちのラベンダーの収穫祭のジオラマ作品「ラベンダーは青い」を制作したことがあります。(この作品は現在諏訪湖オルゴール博物館・奏鳴館にて展示されています)蔓草で作った荷車いっぱいに積んだラベンダーの山を一所懸命に運ぶ妖精たち。
みんなそれぞれラベンダー色のバリエーションを活かしたデザイン違いの衣裳できめてています。妖精たちは働く時だっておしゃれすることを忘れません。
ディドゥル、ディドゥル……。