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寄稿「アトリエ訪問記」迦楼羅

○ 作品との出会い
 数年前とある雑貨屋さんでディスプレイに飾られていた妖精ミルティスに心奪われ、3日間お店に通いつめた末、購入を決意しました。小さい頃からガラスの瞳のビスクドールが好きでずっと憧れていたのですが、家族の「気味悪い」のひとことで購入を断念していたわたし。連れ帰ったミルティスを見てどう言われるかびくびくしていましたが、「可愛い」との感想を得られ、めでたく家族公認に。それからのわたしの収集癖は留まることを知らず、現在では10体を超えるコレクションとなりました。部屋に帰ると出迎えてくれるわたしの天使たちは、いつでも心を和ませてくれ疲れを癒してくれています。

○ 訪問までの経緯
 昨年の6月に銀座で開催された展示会ではじめて先生にお会いしました。お創りになる作品とイメージが重なる優しく儚げな印象の方で、緊張しながらお話してみると、とても親しみやすい可愛らしい方でした。それ以来展示会のたびにお話をさせていただくようになり、先日の展示会で今回のアトリエ訪問にお誘いいただきました。「作品を創っているところを実際に見てもらいたい」との先生のお申し出に、喜んで伺わせていただくことにしました。(←遠慮のカケラもなし)

○ いよいよ訪問

 訪問日はわたしの仕事の都合で土曜日となり、アトリエはお休みでスタッフの方々は残念ながらいらっしゃいませんでした。先生と社長に出迎えられ、早速先生にアトリエ内を案内していただきました。語彙が少ないためなかなかうまく表現することが出来ませんが、以下、作品の制作過程に沿ってレポートしていきます。

○ 制作過程

1 作品の構想

 頭に浮かんだ作品イメージを紙に描きます。学生のころ絵の勉強をなさっていただけありデッサン力が並ではありません。それらのひとつひとつに物語があり、それを立体化したものが作品となっていきます。先生の絵は、絵葉書やホームページの「今月のエルフィン」等で見ることが出来ますが、その繊細さと色づかいの美しさには驚かされます。創作人形はもちろんですが、絵画作品も発表されるのが楽しみです。

2 試作品制作
 作品のイメージが大体固まったら、試作品の制作にかかります。衣装やアートフラワーなどを実際に合わせてみて、色彩やデザインのバランスを見ます。納得できるまで手直しを加えます。

3 原型制作
 試作品を元に原型を制作します。型が定まるまで削りや肉付けなどの修正を加えていきます。作品のイメージに合わせて顔をふっくらさせたり細くしたり手に表情をつけたり。

4 釜で焼く

 アトリエには電力の関係で茶碗用の小さな釜がひとつしかなく、一度にたくさん焼けないため、苦労されているようでした。高温で長時間焼くため、夜焼き始め翌朝焼きあがるようにしているそうです。釜の中で割れていたりする場合もあり、1日に焼ける数はかなり限定されてしまいます。しかも先生は出来が気に入らないと壊して土に戻してしまうそうです。もったいない。(1280度)

5 絵付け
 陶磁器用の顔料を油絵の具用の油で溶いたもので眉やアイライン、リップ、チーク、マニキュアなどを描きます。これは先生独自の描き方だそうです。最初より低温でさらに焼いて絵を焼き付けます。自然な風合いを出すため数度に分けてこの作業を繰り返します。(785度)

6 睫毛を貼る
 ミンクの毛をピンセットで丁寧に目元に貼っていきます。毛の色や長さなどを合わせるのが大変そうでした。とても緻密な作業で不器用なわたしには到底出来そうにないと実感しました。わたしは人形作家になれそうにありません。(←当たり前)

7 グラスアイを入れる

 先生が特別注文している蜻蛉玉(とんぼだま)作家によるグラスアイ。その美しさは通常のグラスアイとは比べものになりません。その中でも、色や虹彩のバランスを選り抜いたものを作品に使用します。

8 ウィッグを付ける
 最高級の山羊毛で作られたウィッグ。シルクのような光沢を持ちナイロンでは表せない柔らかで繊細な風合いを醸し出しています。あまり長い毛がないため、繊維をうまく繋いでロングヘアを作っているそうです。

9 衣装を着せる
 妖精の場合、生地を染め、ドレスやアートフラワーを作ります。花びらのひとつひとつに色付けし、コテを当てて表情をつけるところを目の前で見せていただきましたが、とても時間と根気を要する作業でした。これを作品のひとつひとつに対して行っているのかと思うと気が遠くなります。先生の作品に対するこだわりを感じずにはいられません。型崩れ防止のため、最後に妖精の羽または天使の翼をつけます。
 ドレスの場合、先生のお母様や妹さんがお作りになっているそうです。芸術の才能はやはり家系なのでしょうか。棚にずらりと並べられた美しいドレスは圧巻でした。とても丁寧な縫製でデザインもアンティークからカントリーまでさまざまで目移りしてしまいました。どれもこれも素敵です。ドレスに合わせて下着、靴やアクセサリーをコーディネートしていよいよ完成です。

 制作過程を見てきて感じたのは、先生の作品へのこだわりです。作品のひとつひとつに多くの時間と労力を使い、完璧なものを作り上げるための努力を惜しまないその姿勢。研究に研究を重ねて磨き上げた技術、選び抜いた素材、妥協しない意志、作品への情熱、新しい試みへの挑戦。芸術家とはこういうものかと感心させられました。見るもの、聴くもの、そのすべてを吸収し、独自の世界に昇華させていくその才能とそれを具現化させる技術力。先生の創り出される世界と同じくらい、そんな先生に憧れてやみません。先生の中で留まることなく広がっていく夢幻の世界を、作品に触れることでこれからも共有していくことが出来たらいいなと思います。

○ 写真撮影
 アトリエの一角に作品の写真を撮るための小さなスペースがあり、ちょうど今年のクリスマスカードのための写真撮影をしていたところでした。毎年見るクリスマスカードを見ててっきりプロの写真家の方がスタジオで撮影しているのだと思い込んでいましたが、実際はアトリエで社長自らが撮影されていて、びっくり。お話を伺ってみると、プロの写真家さんに頼んでもお人形を「もの」としか見られないので、うまくその魅力をひきだす事が出来ないのだそうです。たしかにお人形の写真は愛情がないとうまく撮れないですね。技量より愛情です。・・・て、わたし愛情てんこ盛りな割には下手ですけど。カードのモデルになっているお人形たちはまた格別の美しさでした。

○ あとがき
 今回の訪問では、たくさんの作品に囲まれ、本当にしあわせな時間を過ごすことができました。実際に作品に触れたり、先生のお話が伺えたことで、作品への愛情が一層深まりました。このような機会を与えてくださったことに心から感謝いたします。どうもありがとうございました。

アトリエ・ラ・リュンヌ訪問記 ( 2002年11月9日土曜日 )

迦楼羅

編集注記
上記の「アトリエ・ラ・リュンヌ訪問記」は、一愛好家から見た若月まり子の作品について迦楼羅さんに依頼して寄稿されたものです。迦楼羅さんの「Dark+Rose」サイトの11月11日付けの日記にアトリエ訪問のことが記されていますので併せてお読み下さい。また、迦楼羅さんのプロフィールは「Dark+Rose」サイトをご覧下さい。

上記文章の無断転載はお断りいたします。(C) Karura. 2002

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